8『妊娠カレンダー』

妊娠カレンダー (文春文庫)』(書影なし) 小川洋子 文藝春秋 ¥400 ISBN4-16-755701-0
ある日、姉が妊娠した。ひどいつわりを経て、確実に育ってゆく姉の中の生命体。私は不安定な姉の言動に付き合いながら、妊娠、生まれてくるであろう新しい命について思いを馳せる。農薬のついたグレープフルーツの皮でジャムをこしらえ、姉に食べさせながら、染色体を破壊された赤ん坊のことを考える。
3編読み終えた時には「ドミトリイ」が強く印象に残っていたのだけれども、読み返すごとに表題作である「妊娠カレンダー」の気味悪さが際立っていった。妊娠したことを純粋に喜ぶでもなく、また嫌悪するでもなく、自分の中に自分とは違う生命が育つことに恐怖を覚える姉。姉ほどではないけれど妊娠というものがいまいちぴんとこない妹。赤ちゃんが出来た、わあおめでたい! というムードなんか皆無なんである。生まれてくる命への期待っていうものが全くない。マタニティーブルーという言葉では説明できない無感動さ。その無感動さを見せられたときに私は「きもちわるい」と感じたんだろう。
なぜ、PWHの混ざったジャムを食べさせ続けるのか。解説で松村栄子さんは「姉を苦しめる生命に復讐をしているとも言える」ということを書いている。ああそれもあるなあと思い。一方で、単純な興味として染色体の破壊された赤ん坊を見た姉が何を思いどう反応をするのかを見てみたかったから、ていうのもアリかしら、などと思ったり。読み取りにくいったらない! 人間が描かれているのに、体温のあまり感じられない小説って感じがした。ただこれは、私が将来子供を宿した時には逆転するかもしれない感想だなあ。