いつものように遅番の勤務中、中年のサラリーマンが一人レジの前に立った。彼は二つの色の異なる箱を私のほうに押し出しながら「こっちとこっちの互換性はどうなっているのか」と尋ねる。彼の持つその箱にはこう書かれている。
『萌えかるた』
と。
「こっちの眼鏡っ子とこっちの眼鏡っ子は一体どういう違いがあるのか?」と語気を強めて問われても。困惑する私をよそに「それはですねー」と説明を始める同僚。声ですぐに、店が「厄介者」から「都合の悪い時間を埋める貴重な人材」と見方を変えたあの人だと分かる。ていうか『萌えかるた』分かるんだ君。すごいな。えーと眼鏡っ子に互換性はなかったです。結局両方の『萌えかるた』を買ったおっさんは店の出口へと歩き出す。そこで待っているのは奥さんと2人の子供。まさか一家団欒の場で……!?と衝撃を受けたところで場面転換。
ふと気がつけば閉店作業をする事務所。私は小銭の数を数えるんだが、勘定するためトレイに入れようとするその作業を、何度注意されてもブーツで職場にやってくるあの子が邪魔をする。ブチ切れても(店では)外に出したことのない私が「あのさー君すごく邪魔」と言ったら何だか従業員の発する気配が変わる。そこでしばし映像が途切れ、我にかえってみるとそのブーツの子と「貴重な人材」が数名の同僚に囲まれている。なじるような口調に耳をそばだててみると
「私たちあさってから京都での勤務なんだけど、」
「正直あなたたちがそんなだと困る」
「二人で本当に穴を埋められると思ってるの」
無理ですお姉さま方。だってうち6人でようやっと回る店だから。
あと京都に支店はない
所変わってライブハウス、整理番号3番。最前列。バンド名は忘れたけど(実際存在してるかどうかも不明。多分ない)激しめのロックをやる人たち。開演と同時に押し寄せる人。人。人。突き刺すようなギターと不気味だがセクシャルなラインを描くベース、そしてヴォーカルがこめかみに血管浮き上がらせながら叫ぶなか、私の隣にいた男(灰色のトレーナー、赤いリュック、坊主頭)が無表情でステージに上がろうとする。阻止しようとするスタッフを押しのけて壇上に至った彼は、彼を無視しようとしてより一層がむしゃらに歌うヴォーカルの真後ろをウロウロしている。客も完全に引いてしまっていて、ただじっとステージを見ている。と、ヴォーカルが歌うのをやめた。「あーもうお前うぜえんだよさっきから!!!!」と吐き捨てて袖へ引っ込んでしまった。会場の中から、「今日、この日を楽しみに楽しみに楽しみにしてたのに……殺してやる!」という女性の叫び声が。男は尚も無表情のまま、ただ両目だけはぬらりと光らせたまま、スタッフの手を振り払いながらそこに居る。最悪だ……と思いながら意識は三度闇に飲まれた。
電車に乗っている。クリーム色の内装。くすんだ緑の椅子から中央線であるらしいことが分かる。が、外の景色は御茶ノ水でも新宿でも荻窪でもない。ただただ日差しだけが強い。私は気に入りのコートとマフラーをして、ドアの前に立っている。とある駅に着いて、ドアがスライドすると、電車を待っている乗客がいないかわりに三羽の鴉がいた。妙に低い電線(まさに目の高さだったのだ)にとまっている彼らは総じて嘴が異様に長い。南国の、大きな鸚鵡がそうであるように、大きく湾曲した嘴。だが実は垂れ下がっているのは嘴ではなく涎。彼らは一様に、飢えている
私がそれに気付いたのと同時に彼らも私の存在に気付き、カアと一声鳴くや否や飛び掛ってきた。目玉を狙っているのだ。私は半狂乱になって一羽目の鴉を叩き落す。右の拳が小さな頭骨を砕き、彼は電車とホームの間にぱっくり口を開けた暗い世界へ落ちて行った。間を置かずに二羽目が来る。左手の甲で横っ面を思い切りはたくと、彼は鳴き声も上げぬまま私の視界から消え去った。同時に三羽目が突っ込んでくる。いきなり間合いを詰められて焦った私は首に巻いていたマフラーを滅茶苦茶に振り回した。マフラーの一端がするりと鴉の体を包み込んだと思った直後に、彼の姿はその場から消えうせていた。どこに消えてしまったのかは私には分からない。抜け落ちた羽根をじっと見下ろしながら、何故この電車は発車しないのだろうと思ったところで覚醒。
文体が気持ち悪いですが夢のせいです。あと、最後の電車の中の場面で、乗客の中にゴーカートのお兄ちゃん(呼び方変えた方がいいですかね……)がいたけどなんでだろうか。眠気が去ってしまったよ。あーあ。