90『アラビアの夜の種族』

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)
アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)』 古川日出男 角川書店 ¥2700(税抜) ISBN4-04-873334-6
読んだ。面白かったー。時は1798年のエジプト。ナポレオン率いるフランス軍の侵攻を受けてカイロは徐々に不安の色を濃くしてゆく。カイロを治める23人の知事のひとりイスマーイールに「読み始めると夢中になって身を滅ぼしちゃう『災いの書』っていうすんげー本があるんすけど、これを敵の大将にプレゼントしてナポレオンやっつけちゃいませんか!(超意訳)」と進言するマムルーク(支配階級の奴隷)の部下、アイユーブくん。ぶっとんでる。そんな作戦前代未聞だよ。しかもそんな本は実は存在しなくて、ナポレオンが攻めてくる前に自分たちで作っちゃえーみたいなさあ。本書はそんなアイユーブくんの『災いの書』作りと、その奇書の中身とが交互に書かれてます。オチは……んー、これもまたぶっとんでた。まさかアイユーブが○○を○○○○てたとは。やられたー!という悔しさと、それアリなのー?っていうモヤモヤが残ったなあ。
まあ、なんだかんだ言いつつ没頭していたのは事実で、読み終えるのが怖くてたまらなかった。物語から離れて身一つ現実に戻ってきたとき、その無防備なところに爪をたてられそうな気がして。物語が書物の輪郭を侵してこちら側に近づいてくる感覚がだめなんだな、たぶん。
読んだ人しか分からない情報なんですけど、最後のほうの章番号がアラビア数字から不気味なマークに変わったあたりで精神的にショックを受けて思わず本を閉じました。こえーよあれ。